アスカンタの宿屋。二階の客室。 エイトは、何気なくぼうっと窓の外を見つめていた。 灯りの消えかかった教会からから出てくる女性。 遠目にも分かる柔らかい金色の巻き毛。 確か、キラという名前だった。 ――こんな遅くまで・・・―― ずっと見ていたせいで気配に気づいたのか、キラが振り返る。 目が合った。呆けたままのエイトに、キラがお辞儀をする。 彼女とは今日、城の中で一度話しをしている。 顔を覚えていてくれたのかもしれない。 部屋の中を見渡せば、ヤンガスが大きな鼾をかいている。 エイトは思い切って、窓から身を乗り出した。 声をあげようとしたキラに、唇に人差し指を立てて合図する。 窓枠につかまってぶら下がるが、それより下には足を掛ける場所は無い。 エイトは仕方なく、そのまま手を離した。 「エイト!」 駆け寄ってくる。両手を前に出して受け止めようとしている。 「わっ・・・!」 エイトが落ちたのは彼女の真上。 女の細腕で男の体重など支えられる訳も無く、キラはエイトに潰されてしまう。 「ごめん、大丈夫?怪我しなかった?」 急いで飛び退き、片腕を抑えているキラにホイミをかけた。 「あのさ、俺・・・あのくらいの高さなら全然平気だから・・・。」 「でも危ないわ。私、びっくりしたのよ。」 「ごめん・・・。」 謝るしかなかった。 キラは、殆ど初対面のエイトを本気で心配してくれた。 「受け止めてくれて、ありがと。」 まだ地面にペタンと座ったままのキラに片手を差し出す。 ギラは少し戸惑いながらも、微かに微笑んで、その手をとった。 立ち上がらせて、軽く土を払う。 「――少し、話そうか。」 「うん・・・。」 二人は、隣の公園のベンチに座った。 「王様のこと、お祈りしてたの?」 キラがそっと頬を赤らめ、小さく頷く。 やっぱりこの人は、パヴァン王のことが好きなんだ。 でも、どんなに好きでも、身分の壁は超えられない。 そばに居て、精一杯尽くすことでしか、想いを伝えられない。 「明日俺たち、願いの丘に行くんだ。 そうすれば、死んだ王妃様とパヴァン王を 会わせることができるかもしれない。 王妃様の言葉なら、きっと陛下を慰めることができる。」 「そうね。ありがとう。とても嬉しいわ。――陛下は幸せな方ね。 ただの旅人であるあなたでさえ、陛下のために願いを捧げてくれる。」 「・・・でも、ちょっとだけ悔しいな。 本当はね、私が陛下を元気づけてあげられたら、なんて思っていたの。」 「キラは、王様のことが好きなんだね。」 さっきよりも、さらに顔を赤らめる。だが、隠すつもりはないらしい。 小さな声でうんと言った。 「でもね、私はただの小間使いなの。ただの、平民なの。 周囲の人が許さないわ。陛下だって・・・」 「そうかな?みんな、キラが陛下に一番尽くしている事は知ってるよ。 陛下だって、キラのこと、ちゃんと見てるよ。」 「そうね・・・そうだったらいいのだけれど・・・。」 「ひとつ、約束しようか。もし俺が陛下を元気付けることができたら、 キラは陛下に告白をする。」 「・・・約束できないって言ったら、願いの丘には行かないつもりなの?」 「いいや、行くよ。」 馬鹿正直にそういうと、キラは口元に手を当ててクスクスと笑った。 「どっちにしろ、いくんじゃない。それじゃあ約束をする意味が無いわ。」 釣られて微笑を返す。 「そうだけど、でも取引じゃないんだよ。約束。 だから、意味無くなんかないだろ。」 エイトの真剣な眼差しに笑うのをやめ、キラが微かに俯く。長い沈黙。 エイトは、キラを真っ直ぐに見つめたまま、辛抱強く待った。 「そうね。じゃあ、約束しましょう。 あなたが陛下を元気付けることができたら、私は陛下に好きって言う。」 水仕事でガサガサの小指が差し出される。 エイトはそれに、自分の指を絡めた。 そして、自分の中で約束をした。 ――ドルマゲスの呪いが解けたら、俺も姫に・・・―― 指が離れていく。 「でも、あなたがいつまでたっても陛下を元気付けることができなかったら 私は待ちきれなくて先に告白しちゃうかも。」 小さく舌を出す。 「負けないよ。」 気づけば、逆に励まされていた。 --------------------------------------------------------------- ゲームではアスカンタの宿屋に二階なんてありません。 やんちゃなエイトが書きたかったのです。