マルチェロがこの修道院に来たのはまだ幼い頃。 母に手を引かれて何も分からぬままオディロ院長に引き合わされた。 大人たちが会話をしている間、迷路のような建物の中を夢中になって探検していた。 「マルチェロ、いい子で暮らすのよ。」 遊び疲れて戻ってきたマルチェロに優しく微笑む。その微笑に何故だか嫌な予感がした。 「一緒に居て上げられなくてごめんね。」 「母さん、どこか行くの?」 「そう。だからいい子でここに居てね。」 「いつ帰ってくるの?」 「マルチェロがいい子にしていたらすぐ帰ってきますよ。」 不安な気持ちは消えなかった。 だが、それ以上は聞いてはいけないような気がして、聞けなかった。 一週間くらい経った頃だろうか。修道院で葬式が行われた。 行き倒れた女性の死体を発見し、旅人が修道院まで運んできたのだ。弔って欲しい、と。 死体は、オディロ院長の部屋の裏にある墓場に、埋められることになった。 まさかと思って見にいこうとした。 「駄目だ。子供は見ちゃいけない。」 その男のはるか向こうの人だかり。皆黒い服を着て、穴を掘っている。 「お母さんかもしれないんだ。見せて。」 「だめだよ、死んでいるんだ。失礼だから見てはいけない。」 「みんなは見てるじゃないか。僕だってその人を弔うんだ。」 「駄目だ。お前は見てはいけない。」 「なんで!なんで会わせてくれないの!」 「邪魔だ。向こうに行っていろ!」 大きな身体で押しやられる。苦し紛れにお母さんと叫ぶと、犬のように蹴られ、地面に転がされた。 人だかりの足の間から微かに見える棺桶が、穴の中へと収められ、見えなくなる。 マルチェロが泣いている間に、穴の中には花が入れられ、土がかぶせられる。 次から次へと、土がかぶせられる。 ――もう、棺の蓋を開けられない。 ――もう、息ができない。 ――もう、出れない。 騎士団は上下社会。軋みや歪みを孕む抑圧された閉鎖社会。 常に互いは家族であり、競争者。虐めや妬みはしょっちゅうだ。 マルチェロは剣才に秀でていた。 幼くして突出した才能は、集中攻撃の対象となる。 「覚えてないのか?あの時葬った女が、お前の母親だよ。」 「お前の母親は妻のある男を誘惑したんだ。」 「正妻に子ができ、男に捨てられてやっと罪に気づいたのさ。」 「お前さえ生まれていなければ実家に帰ってやり直すこともできただろうに。」 「あの女はお前を育てることを放棄したのさ。」 「罰が当たってモンスターに食われたに違いない。」 「いや、あの女は、自分からモンスターに食われに行ったのさ。」 「それじゃあ自殺と変わり無い。生きることすら放棄するとはなんと罪深い女だ。」 自分の知っていた真実が、大きな力によって歪められていく。 力が欲しい。 誰にでも対抗できる力。 誰よりも強なって、誰よりも上に立つ。 もっと、力を――! 「それまで。勝者マルチェロ!」 審判の声が響く。相手は聖堂騎士団副団長。 自分より五つ年上の副団長を相手に、躍起になって剣を振るっていた。 「やめろマルチェロ!もう勝負はついている。」 まだ剣を止めないマルチェロに、試合を観戦していたオディロ院長の声が響く。 その声に剣を収め、大して動いても居ないのに肩で息をしていたことに気づく。 息を整えながら下がり、型どおりの礼をする。 頭を上げると、殺気立ったままの副団長が場外に下がり、代わって団長が進み出る。 観戦していた隊員たちのざわめき。この勝負で、次の団長が決まる。 この勝負に勝てば、こいつを引き摺り下ろすことができる。 互いに礼をし、剣を構えた。 真っ直ぐに構えたレイピアの先。同様にレイピアを構える聖堂騎士団団長。 「始め。」 負ける気がしなかった。 --------------------------------------------------------------- マルチェロの過去ってククールが生まれて追い出されたこと以外、 設定はないみたいです。 母親がどこに行ったかは謎のまま。 そういえばオディロの前の院長ってどんな人だったろう。 ちょこっと出てきた気がするけど覚えてない・・・。