石壁の続く道。魔物たちの獣臭さと自分たちの血の匂い。 疲れた身体を引きずって、頭に描いた地図を頼りに進む。 「エイト、MPもなくなってきたし今日はそろそろ引き返しましょう。」 「いや、でも・・・」 もうだいぶ下に下りてきた。もう少し。確実に終点は近づいている。 ビーナスの涙さえ手に入れたなら、後はすぐにリレミトで帰ってしまえばいいのだ。 「焦ったってしょうがないだろ。また来ようぜ。 宝石を守るボスがいないとも限らないだろ。」 「でももう少しで行けそうだよ。薬草あるしなんとかなるよ。」 「エイトの兄貴。気持ちは分かりやすが、ゲルダは信頼できる女でがす。 ちょっとくらい遅くなっても姫様を手荒に扱うような事はしやせん。」 いつも味方になってくれるはずのヤンガスでさえそんなのんびりしたことを言っている。 トロデ王が居たなら間違いなく味方をしてくれただろうが、今は洞窟の外。 「――分かった。」 外に出ると、もう日が暮れかかっていた。 ルーラでパルミドに戻り、宿を取る。 案内された部屋で、窓から真っ直ぐ下を見る。 一週間前、あそこで姫は浚われた。 シャワーを浴び終えたククールが、髪を拭きながら部屋を見回す。 妙に静かな部屋。ゼシカが一人魔法書を読んでいるだけ。 「エイトは?」 「ヤンガスと外で剣のお稽古。」 「バカかあいつ。」 姫と離れて、じっとして居られないのだろう。 自分の不甲斐なさを悔やみ、一刻も早く助けなければと焦っている。 「単純よね。」 気持ちは分かるが、ちゃんと寝ないとMPは回復しない。 ヤンガスまでつき合わせて、一体なにをやってるんだか。 ゼシカと二人っきりといういうシチュエーションは美味しいが、 エイトをあの状態のまま放っておくわけにも行かない。 「行って来る。」 外に出てすぐに二人の姿は見つかった。 街中ということもあって人が集まっていないかと心配したが そういうのはこの街ではさほど珍しい光景でもないらしい。 通行人は、不審そうに二人をちらりと見るだけ。 「ククール?なにしに来たでがす?」 ヤンガスの言葉でエイトが振り向く。基本的に周りは見えてないようだ。 「ヤンガス、こいつ借りてく。エイト、付いて来いよ。」 呼びかけても突っ立ったまま。 そのままでは動きそうに無いので先に歩き出すと、慌てて剣をしまってついてきた。 「どこいくんだよククール?」 「修行。」 「ってここカジノじゃん!」 不満な声を隠しもしない。あんまり素直で、ちょっと可愛い。 「たまには息抜きも必要だろ。」 スロットで軽く増やして、ホイミスライムを眺めながらのんびりビンゴ。 この街にぴったりの地味なカジノだが、旅の息抜きくらいはできる。 「ククール、いつまでやんの?」 大して眠くもないくせに、あくびをしている。 「あの子が俺にコインをオマケしてくれるまで。」 「じゃあそれ一気に全部掛けろよ。」 「怒るなって。そうだ、折角だから勝負しようぜ。店員さん、カード借りるよ。」 やるとも言ってないのに、エイトの前には裏向きになったカードが5枚配られる。 「取れよ。」 「ククール、イカサマしてるだろ!」 かれこれ一時間。何度やっても何度やっても勝てない。 こうしてククールに詰め寄るのも何度目だろう。 「してねえよ。カードきったのお前だろ。」 片手に持っているカードの裏を睨む。睨んだって手の内は読めない。 長い足をこれ見よがしに組んで、ワイン片手に余裕顔。 それだけで一枚の絵になってしまう優雅な姿。ククールには勝てない。 「さ、どうする?」 促され、カードを交換する。決して悪い手ではない。 だが今度こそはと思って場に出すと、ククールはそれ以上のものを揃えている。 「ね、本当にイカサマしてない?」 「してない。」 警戒してけっこうちゃんと見ていたつもりなのに、どうしても見破れない。 もしかしたら本当にそんなことしてないのだろうか。 ククールは顔に出ないので分からない。 「お前はバカ正直過ぎんだよ。思ってることが全部顔に出てるんだ。 だから次の太刀筋が読めちまう。馬鹿なモンスター相手ならまだいいが ドルマゲス相手にそれが通じると思うなよ。」 「あ・・・」 テーブルの上に散らばったカード。ククールの無表情。 頬杖を付いて仏頂面をしていた自分。 「そか。」 「そ。」 ククールばかり見ていて気づかなかった。自分の顔は、見えないから。 ギャンブルだって戦闘だって一緒だ。行動を読まれていたら絶対に勝てない。 「ありがとククール。俺、先帰る。」 「おやすみ。」 まったく単純なもんだ。 ちょっと優しくしてやっただけで、あんなにはしゃいでる。 でも、悪い気はしない。 「カード返すね。」 場に出ていたカードと、服の下に隠し持っていたカードをまとめて返す。 女の子の尊敬の目が心地よい。 「あなた手が早いのね。うちの店でディーラーやらない?」 「そうだね。君の傍にずっといられるならとっても魅力的なお誘いだけど・・・ ごめん、今任務中なんだ。」 「一回くらい負けてあげてもよかったんじゃないですか。」 そう、あれだけやれば偶然でも一度や二度は勝てないとおかしいのだ。 「こう見えて負けず嫌いなんだよ。」 朝の眩しい光がパルミドの街に降りそそぐ。 バンダナを閉めなおしたエイトが、トーポに餌をやっている。 ひとまず、落ち着いたらしい。 「機嫌直ったね。」 「そうだな。あいつが荒れてると手が付けられなくて困る。」 「エイトのことじゃないわよ。」 いつも通りのそっけないゼシカに、ポンと肩を叩かれる。 これには苦笑するしかなかった。 「ははっ。ゼシカには敵わないな。――だからキミが必要なんだよ。」 ゼシカに言われて初めて気づいた。 エイトに嫉妬していた。いつでも好きな人の傍に居られるあいつに。 ――俺って心狭かったんだな―― 人と自分の幸福を比べたってしょうがない。 今までそんなふうに思うことなんてなかった。 きっと、相手がエイトだから。 --------------------------------------------------------- なんか小説だともっぱら クク×主 になっちゃうね。 てかゲーム中ってククールとマルチェロのからみ少ないよ。 やっぱり王道は修道院時代ですか。 もしくはエンディング後ですか。