次の日、朝の礼拝を終えたマルチェロがミニデーモンを起こしに行く。 いつもミニデーモンが寝床にしている樫の木の上。 そこにあったのは一枚のメモだった。 いえでする。ここにいるからとっととさがしにこい ご丁寧に居場所の地図まで書いてある。 谷から少し離れた森。歩いていくには少し時間が掛かりそうだった。 ククールが教会に着いたとき、マルチェロは装備を整えているところだった。 「兄貴、どっか行くの?」 マルチェロは、ミニデーモンが書いたメモをククールに渡した。 「・・・お優しいですね、マルチェロ様は。」 「遅くなると愚図るからな。」 皮肉を込めて言ったが、マルチェロは相手にしなかった。 「付いてっていい?」 「――橋の傍の暴れ牛鳥のお産がもうすぐだ。 呼びに来たら俺の代わりに行ってやってくれ。」 「は?俺が?」 「真似事でいい。本棚に洗礼名簿があるから名前を書いてやってくれ。」 言うが早いが、マルチェロはさっさと支度を整え、教会を出て行った。 バーサーカーが狩りの無事を祈りに来たり ホイミスライムが畑で取れたという野菜を持ってきたり。 マルチェロは、意外なほどに慕われていた。 ラジュもまた、礼拝に来るうちの一人だった。 「でもびっくりしたわ。まさかククールさんがマルチェロ様の弟だなんて。」 「あんな奴に様づけしなくていいよ。」 「ふふ。でもなんか、谷の者は皆そう呼んでるから。」 「分からないな。なんであいつがそんな信頼されてんだか。」 「多分皆、ああやって谷をまとめてくれる存在を欲しがっていたのよ。 もともと私たちはここに集まってはいるけれど あまり干渉しあわないでバラバラに生活していたの。 でも最近人に追われた魔物たちが集まってくるようになって 前からの住人と摩擦が起こるようになってね。」 そのままラジュと話し込んでいると 開け放してある窓から、ドラキーが入ってきた。 「マルチェロ様は何処だい?暴れ牛鳥が産気づいたんだけど」 地図にあった場所に行くと、ミニデーモンが木の上でスヤスヤと寝ていた。 そのあどけない寝顔に気が抜ける。 起こさないように抱き上げ、背中に負ぶったが ミニデーモンは直ぐに目を覚ましてしまった。 「起きたか。」 「――遅い。」 小さな手でマルチェロの背中にぎゅっとしがみつく。 「悪かった。」 胸の中が穏やかなもので満たされていく。 「反動」なのかも知れない。 ククールを避けるが故に、本来ククールに向けるべき優しさを他の誰かに向けている。 その対象が、かつては他の団員であり、今はこの谷の連中。 あんなふうに口説かれて、素直に喜べない自分が疎ましい。 「マルチェロ様、あいつ何なの?」 口を閉ざしたマルチェロ。 聞いてはいけなかったかと後悔したミニモンが 話を反らそうと決めた頃、マルチェロはやっと返事を返した。 「私の想い人だ。」 ミニデーモンがまじまじとマルチェロを見る。 「想い人って・・・男同士なのにか?」 「そうだ。」 誰かが言った。それは畜生にも劣る穢れた行為だと。 たとえモンスターの世界といえども、そういうことは滅多にあるものではない。 「子供ができないだろ。」 「欲しいとは思わない。」 「ふうん。そっか。じゃあ別にいいのか。」 モンスターの世界は単純だ。そこにあるのは目に見える現実だけ。 「人の世界では、間違いだとされている。」 「なんでだ?間違いかどうかなんて本人にしかわからないだろ?」 「そうだな・・・。」